ある寒い冬の夜の出来事

数年前の冬、
会社の人と呑み会の帰り
駅まで、歩いていた。
その男性は、電車に、
私は、駅の自転車置き場に向かう
途中だった。
その時、私の足元に、
何かが、飛んで来て、足に引っかかった、
見てみると、新札の千円が、2枚重なった
お札だった。
私は「やったぁ〜♪」とばかりに、
その、当時30代半ばの上司に、
「千円づつ、分けましょうよっ!」と
無邪気に提案した。
この上司は、若いのに普段から、
融通が利かず、冗談もあまり通じない人で、
真面目な人であった。
私の提案に、憤慨して、
「この2千円は、今すぐ警察に届けなさい。
 私も付いて行ってあげるから!」
と言うのだ。
私は、
「財布や定期入れなら、届けますが、
 裸のお札を届けても、あまり意味が無いと
 思います。」と言った。
でも、彼は私の意見に、更に怒りを増したようで、
寒い冬空の駅のコンコース近くで、
延々と、彼の説教を聞くコトになった。
彼曰く、
<お札を落とした人は、運が悪かった人で、
 その、お札を拾った私は、悪い運を拾ったコトになる。
 だから、そんなお金は、貰うべきではない!>
と言う話しが延々と続いた。
私は、
「じゃぁ、警察に今から届けますので、
 もぅ、電車もなくなりますので、○○さんは行って下さい。
 拾得物の書類は、週明けにでも、お見せします」
と言うと、
こんな時間に、女性を一人には出来ない!と、
すぐ近くの駅の警察所まで、
付いて来てくれた。
そして、「僕はここで、待っているから」と
外で、立っていた。寒い冬の夜に・・
私は、とても嫌だった。
彼は、彼なりの信念を貫いているし、
私が、2千円をネコババすると思ってもいないのは
わかる。
嫌だったのは、
おまわりサンに、状況を説明するのがだ!
この、落とし主が現れないであろう、
裸のお札、千円2枚の為に、沢山の書類の用意をしたり、
印鑑をついたり、保管番号を作成したり・・
そんな、面倒なコトを、やらされるおまわりサンも
嫌だろうなぁ〜、と思ったのだ。
やはり、おまわりサンも、面倒くさそうに、
対応していたし、何気なく、持って来なくて
いいのに・・的なニュアンスのコトも
言われた。
その都度私は、外に立ってる上司の話を
一部始終を話した。
警察も少し、呆れ顔であった。
大きな大きな、保管袋に、千円札、2枚が入れられ、
厳重に封がされた。
私も立ち会いでないと、その封筒の開封
出来ないらしい・・(大袈裟な事になってしまった。)
1時間くらい、状況説明などで、
何んだかんだ、かかった。
私は、警察所(派出所)を出て、
上司に言った。
「半年たって、持ち主が現れない場合は、
 貰えるそうですよ♪」
そんな私に上司は、言った。
「その時は、コンビニの募金箱に寄付しなさい。
 その時点で、悪い運は、消えるんだよ。」
言葉が出ない私に、彼は追い討ちをかけた、
「たった2千円のために、交通事故などの
 悪い運を引き寄せたくないでしょ?」
 
この後、彼は、終電もなくなり
タクシーで、満足げに帰って行った。
私は、寒くて寒くて、たまらなかった・・・。
 
きっと、彼は「七つの大罪」で、
殺される事は、この先もないであろう。